国語の先生のこと

いわゆるファスト・ファッションではないもので男性用の下着を、通信販売ではなく実店舗で買おうとするとなかなかたいへんだという話。白ブリーフはいやだとか、ボクサー・パンツは好みではないとか言いはじめるとなおさら。吉祥寺の百貨店などでの男性用の下着の扱いは、多分ひとが思っているよりもとてもとても少ない。そういうふうに男性用下着さがしをしていたのは昨年のことで、空き時間や思い出したときにいろいろと見てまわっていたのだけれど、結局伊勢丹新宿店メンズ館の地下にひろびろとした男性用下着の売場があり、これと思えるものを何着か買うことができた。はじめに手にとったものが20,000円もして驚いたが、ふつうの値段のものもちゃんとあった。なんの話かと思われるかも知れないが、自分にとっては考えさせられることだった。


東京洋書会の事業部をはなれて最初の市場の日。早起きをしないで済むのがうれしい。東京洋書会というのは東京古書組合に加盟している古本屋の有志が運営している洋書に特化した「市場」で、この古本屋がよくいう「市場」というのは、組合に所属する古本屋たちがお互いに品物を出品して、競争入札で競り落とすことができる場のこと。洋書会は毎週火曜日に、古書会館の4階で市会をひらいている。事業部のしごとは洋書会の会員の持ち回りで、自分は昨年7月から今年6月まで。そういうことでこの日は店を開けてから均一の補充などをして、店員に店番をお願いして、神保町へ。とてものんびりやらせてもらえている気持ちになる。車中でもこころなしかリラックス。手持ちの本を読みすすめる。飯田一史『「若者の読書離れ」というウソ』(平凡社新書)。


御茶ノ水に着くとちょうど昼過ぎで、そのまま歩くと洋書会の当番のみんながお弁当を食べているころに着いてしまいそうだと思い、自分も昼食をとることに。神保町にはごはん屋さんがたくさんあり、たくさんあるだけに迷いはじめると入る店が決められなくなる。それを回避するためというのでもないのだけれど、最近はなるべく外国人のひとがやっている店にしようと思っている。神保町に限らずどこでも、たとえばふたつの店で迷ったら、そう考えて決める。そうすると古書会館の裏の通りにある餃子屋がおいしくて量もあり、安い。すこし混んでいる時間で、カウンターの席にする。青椒肉絲の定食に餃子を三つつけてもらう。暑いのでコーラものむ。コーラはおおきなコップで出されるときと、瓶で出されるときがあり、やはり瓶だとうれしい。


ときどき思い出すこと。高校の現代国語の先生は、ほぼ毎回授業のはじめに自分が読んだ本やみた映画で面白かったもののことを手短に話し、おすすめです、というのだった。いちばん印象的なのは青山真治の『ユリイカ』を、黒白でね、とても長くてね、ととても心動かされたというように話していた様子だ。当時青山真治のこともよく知らなかった自分はそれがきっかけで『ユリイカ』をみたのではなかったか。自分のしごとに意味があるのか(たとえば社会的な)などと考えるとあまりに息苦しい気もするが、それでも思うのは、自分が高校、大学、その後の期間に古本屋で経験することができたすてきな経験を、自分よりも若い世代のひとたちにも経験してもらえたら、ということで、その先生のことを思い出すのは、そういうことを考えているときであったりする。