図鑑
5月は古書組合の市場のしごとが佳境。純粋な肉体労働の、行き帰りの電車で本を読むことでなにかを慰める。ウェンディ・ブラウンの『いかにして民主主義は失われていくのか』という本を読みはじめる。新自由主義を社会や政治、経済のシステムから説明するのではなく、人間のあり様の変化ということから考えていく。新自由主義のもとでは、ひとは常に自らをポートフォリオ化して競争にさらして、人間というよりも人的資本と呼べそうなものへと変わってしまう。自分は昔からよくSNSで読んでいる本のことを書いてきたのだけれど、うすうす気づいていながら気づかないふりをしてきたことでもあるが、まさに自分をポートフォリオ化して結果、新自由主義を駆動させる側に身をおいてきたのだと思う。
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すこし前のある水曜日。Yさんが成城学園にあるちいさな美術館へいくというので、ついていくことにした。成城学園で降りるのは十数年ぶり。駅から住宅街の道をいくと、画家の旧家が区に寄贈されたのだというちいさな美術館があらわれる。留学時代の具象の親密なふんいき、後年の抽象のうつくしさに惹かれる。展示会場は画家のアトリエであったようで、板張りの床に顔料が生み出した模様までが画家の作品のようで眺めて飽きなかった。美術館を出るとき、受付の方がふかく、ながくお辞儀をされたのがなぜか印象に残った。帰りの駅までの道は西日のまぶしいのを避けるためにまず南北の道を歩き、それでも東西の道を行かないと駅にはたどりつかないわけで、さいごは渋々西日を受けながら線路沿いを歩いた。
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その日はせっかく成城学園まで出たので、経堂の「ゆうらん古書店」へも行くことにした。ゆうらん古書店は昨年開店した古本屋で、古書組合でお世話になっているIさんの店だ。入口にむかって左側の大きなガラス窓には外側へむけて通行人にもみえるようにして様々な本が陳列されていた。文学や音楽に思いのあるひとがやっている店なのだと一目でわかる。たぶん10坪ほどの小ぶりな、そのぶんどこを見ても感じのよい本ばかりというすてきな古本屋。2000年代の前半、自分が古本屋通いをはじめたころの、どきどきわくわくするようなきもちを思い出しながら、ゆうらん古書店訪問のその後の日々を過ごしている。ジャスパー・ジョーンズの版画集と、学生のころに読んでいた古本屋ガイドを見つけて買った。
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某日。図鑑をまとめて売っていただき、絵本の棚へ並べた。きっとすぐ売れるだろうと思う。店で人気のジャンルで、問い合せも多い。有名人になる前のさかなくんが「TVチャンピオン」に出場して、部分的に切り取られた写真から魚の種類を当てたあと、さらにその写真が掲載されている図鑑のタイトルと出版社を言い当てるという動画を見たことがあり、その場面がとてもすきだ。なにかにのめり込み、関係する本をそれこそボロボロになるまで読みつぶしてきた時間の流れまでが感じられるような場面だと思う。自分が中学生のころは図書室にあった映画雑誌『スクリーン』や『ロードショー』をやはりくたくたにツカレてしまうまで読んでいた。そういうことも連想しながら、並べた図鑑の背を眺める。
すこし前のある水曜日。Yさんが成城学園にあるちいさな美術館へいくというので、ついていくことにした。成城学園で降りるのは十数年ぶり。駅から住宅街の道をいくと、画家の旧家が区に寄贈されたのだというちいさな美術館があらわれる。留学時代の具象の親密なふんいき、後年の抽象のうつくしさに惹かれる。展示会場は画家のアトリエであったようで、板張りの床に顔料が生み出した模様までが画家の作品のようで眺めて飽きなかった。美術館を出るとき、受付の方がふかく、ながくお辞儀をされたのがなぜか印象に残った。帰りの駅までの道は西日のまぶしいのを避けるためにまず南北の道を歩き、それでも東西の道を行かないと駅にはたどりつかないわけで、さいごは渋々西日を受けながら線路沿いを歩いた。
その日はせっかく成城学園まで出たので、経堂の「ゆうらん古書店」へも行くことにした。ゆうらん古書店は昨年開店した古本屋で、古書組合でお世話になっているIさんの店だ。入口にむかって左側の大きなガラス窓には外側へむけて通行人にもみえるようにして様々な本が陳列されていた。文学や音楽に思いのあるひとがやっている店なのだと一目でわかる。たぶん10坪ほどの小ぶりな、そのぶんどこを見ても感じのよい本ばかりというすてきな古本屋。2000年代の前半、自分が古本屋通いをはじめたころの、どきどきわくわくするようなきもちを思い出しながら、ゆうらん古書店訪問のその後の日々を過ごしている。ジャスパー・ジョーンズの版画集と、学生のころに読んでいた古本屋ガイドを見つけて買った。
某日。図鑑をまとめて売っていただき、絵本の棚へ並べた。きっとすぐ売れるだろうと思う。店で人気のジャンルで、問い合せも多い。有名人になる前のさかなくんが「TVチャンピオン」に出場して、部分的に切り取られた写真から魚の種類を当てたあと、さらにその写真が掲載されている図鑑のタイトルと出版社を言い当てるという動画を見たことがあり、その場面がとてもすきだ。なにかにのめり込み、関係する本をそれこそボロボロになるまで読みつぶしてきた時間の流れまでが感じられるような場面だと思う。自分が中学生のころは図書室にあった映画雑誌『スクリーン』や『ロードショー』をやはりくたくたにツカレてしまうまで読んでいた。そういうことも連想しながら、並べた図鑑の背を眺める。